対談

 

 

銀行口座を保有しない20億人に送る、デジタルウォレットと与信革命

2018年5月28日

 

三 浦まずはドレミングの事業開始のきっかけについて教えてください。

桑原氏ドレミングは東京飯田橋にあるキズナジャパン株式会社のスピンオフの会社です。
キズナジャパンは、日本で最初に勤怠給与計算システムをSaaS型で提供した会社です。
今はメジャーになっていますが、SuicaのようなICカードを出勤退勤のタイムレコーダー代わりに使うという
機能を開発した会社でもあります。
そのようなベンチャー魂の強い会社からドレミングが生まれました。
キズナジャパンが創業から20年間で培った給与計算のノウハウやソースを使って世界の労働者を支援するプロジェクトを作り、
独立したのがドレミングです。
当初ドレミングのエンジニアは全員キズナジャパン出身という形でした。
2015年には創業時はフィンテックという言葉が無く、
海外でも金融サービスを展開していこうというベンチャー企業は少なかったと思います。

三 浦日本から海外進出している金融のサービス・テクノロジーは少ないと思うのですが、
事業進出や開拓する上でどのようなハードルがありましたか?

桑原氏創業当初から世界を目指していたので、逆にハードルやレギュレーションを意識しすぎると身動きが取れなくなると思い、
こういうことをやりたいと言い続けてきました。
現在事業化が進んでいるベトナムでのレギュレーション対応はパートナー企業と協力してクリアにしています。

三 浦まず始めてみるというのは、まさにベンチャースピリッツですね。

桑原氏はい。逆に知らない方がブレーキかからなくてよかったと思います。

三 浦創業のきっかけは、親会社のスピンオフということでしたが、
今までの既存事業と違うベクトルに向けて進んでいくことになります。
ドレミングの社会貢献を目指す事業について、チーム内で理念を共感していく上で、苦労されたことなどありましたか?

桑原氏周りから注目されていくようになって、自然と社員の意識も変わってきたと思います。
新しいメンバーは、ソーシャルビジネスを志向している傾向にあるので、少なからず既存メンバーが影響されている面もあります。

三 浦ドレミングさんは、KPMGの「Fintech 100」をはじめ、さまざまなアワードを取られております。
どのような戦略が背景にあったのでしょうか?

桑原氏創業当初はどのベンチャーも同じだと思いますが、なかなか話を聞いてもらえない状況でした。
組もうとしているのは金融機関なので、「先に有名になった方が早く話を聞いてもらえるかも」との思いにいたりました。
私自身も金融業界の出身ではなく人的ネットワークも何もない状態でのスタートだったので、
まずベンチャー企業のコンテストで賞を取って、いわゆる「ベンチャーとしての箔」を少しずつつけていったら、
話を聞いてもらえると思ったんです。
1年間と期限を決めて、「出られるものは出る」と多くのコンテストに参加しました。
その中でも海外でもネームバリューがある三井住友銀行さんや、NTTデータさんのコンテストで賞を頂いた実績は、
海外や日本の金融事業者の方にも、非常に話を聞いてもらいやすい状況を作ることができました。

三 浦まさにアワード受賞効果ですね。

桑原氏金融業界に関しては、信用がないとなかなか話を聞いてくれないので今振り返ると、
海外で通用するアワードをいくつか取っていたというのが本当に良かったのかなと思っています。

三 浦ベンチャー企業の信用力は工夫すれば担保できるということですね。

桑原氏そうですね。提携先企業においても、既にある程度評価があると進行が円滑です。

三 浦KPMGのような大きなアワードに選出されるまでの経緯をお伺いできますか?

桑原氏「Fintech100」はロンドンの弊社の英国法人にて選出されました 。
KPMGが選出する「Fintech 100」はすでに成功している50社、これから発展していく50社が毎年選出されますが、
弊社は後者の方で選出して頂きました。

三 浦銀行口座を持たない20億人を対象にした提供を目標に掲げられております。
勤怠管理とリアルタイムの給与支払いのサービスがどのように実現されているか、教えてください。

桑原氏もともとは海外展開を考えておりましたが、セブン銀行さんとの提携を優先し、去年の11月に日本でサービスを開始しました。
セブン銀行さんは、オープンイノベーションに積極的でベンチャー企業を募集していました。
ATMの活用が基本テーマで募集があり、選考をクリアして事業提携となりました。
日本は非正規雇用の人が3千万人(労働人口の30%)以上を超えていてほとんどの企業の給与支払いは月に1回となっていますが、
それは今働き方に合わなくなってきています。
非正規雇用はネガティブな面だけではなく、選択的にフレキシブルな働きを求めている人が増えていると思います。
東南アジアでも非正規雇用が多いので、日本から世界に広げるという最初の取り組みとして、
セブン銀行さんとのパートナーが決まったのはとても嬉しかったです。
問い合わせが多い業種は人材派遣の会社や、非正規雇用者を多く抱えている企業様など、
従業員定着と確保に苦労されている中小企業の方々が多いですね。
セブン銀行さんとのサービスは、仕事が終わったら日額給料をリアルタイムで計算・確定して、企業側がその給与を承認したら、
従業員がスマートフォンで振込操作ができ、最短でその日のうちに自分の銀行口座で給与が受け取れるという仕組みです。
通常このようなサービスはどこか企業が代行して支払って手数料を受け取るという仕組みが多いのですが、
私たちのサービスは銀行に支払いの通知をしているだけで、正規の振込手数料以外の手数料は一切発生しません。
労働基準法に沿って日額でも、給料が100%貰えるというのが日本のモデルになっています。
フレキシブルに働く人たちの中では、例えば、月初の10日間だけ働いて、給与日が翌月15日とかだと、
給与を貰えるのが1ヶ月以上先になることもあるかもしれません。
給与は生活と直結するので、できれば短期間で支給される給与の仕組みがほしいというお問い合わせは多いです。

三 浦給与受給者にとって、すぐに支給されるというのは大きなメリットですね。
支払いの仕組みですが、企業の方があらかじめドレミングさんのシステム内に入金する必要があるのかと思ったのですが
そうではないんですね?

桑原氏そうではないです。企業様がセブン銀行さんに口座開設して頂き、その原資から給与を支払うという形です。

三 浦セブン銀行さんとはAPIでつながっているんですね。

桑原氏そうです。ダイレクトにAPIを通して、支払い通知をしているという形です。

三 浦他行のAPI活用より進んでいますね。照会だけでなく振込指示まで出来るというのは初めてお聞きしました。

桑原氏API活用による振込操作ができるのは当社が初めてと聞いています。
ベトナムでは、e-ウォレットを提供している現地の銀行があって、
そのe-ウォレット上のデジタルマネーは現金(ベトナムドン)にいつでも変えることができるんです。
その銀行と提携して、銀行口座がなくてもe-ウォレット上で給与を受け取れる。というモデルをはじめてベトナムで行います。

三 浦デジタルウォレットで預金・支払いが完結する世界見えてきますね。

桑原氏そうですね。通常e-ウォレットはお金をトップアップ(チャージ)をして利用します。
そのトップアップが給与に変われば みんながe-ウォレットを使うようになります。
企業からe-ウォレットで給与が払われるようになれば、そこの従業員は必ず使いますので、
e-ウォレットの提供者である銀行にとっても大きなメリットがあります。
給与は生活の糧ですが、給与をアドバンスしてほんとに生活自体は向上するか、
労働者の人たちの生活が向上するかと考えると大きなサポートにはなりますが、それだけでは十分ではないとおもいます。
金融機関にアクセスできない人たちは世界に20億人いるといわれているのですが、
できない理由は「銀行がない」など物理的な面もあるのですが、個人の信用に起因する部分もあります。
低賃金でなくても転職したり、新しく事業を起こしたりするとわかりますが、自分の証明をするということは、
すごく難しいのです。
私は個人の労働の履歴は一つの資産だと思います。
例えば、給与をもらった履歴や、労働の履歴などから、何かしらのクレジット(信用)が作られ、
それをベースに金融サービスを受けられたり、投資を受けられたりできると思うんです。
私たちの目的は、働いていれば誰でも金融サービスにアクセスできる社会を目指すことです。
金融に関わるレギュレーションはどの国も厳しく、私たちが金融事業者自体にならなくても、プラットフォームを提供することで、
金融サービスの成長に貢献できたらいいと考えています。

三 浦貴社の明確なビジョン、強く共感しました。
私も東南アジアの金融機関とお取引していますが、既存の金融機関が手を出しにくい地域が存在しています。
インターネットですべて繋がる時代に、貴社のように既存の金融の考えにとらわれず、
個人の生活に必要なニーズやペインから新しいサービスを生み出していくアプローチは、非常に参考になります。
貴社はブロックチェーンの技術を利用されていると伺ったのですが、どのような活用をされているのでしょうか?

桑原氏労働の履歴や、給与の履歴を保管するためにブロックチェーンの技術を使いたいと考えていますが、まだ開発途中です。

三 浦個人情報の履歴情報を公開するということですね。

桑原氏そうですね。個人が必要なときにそれを利用できる環境を提供したいです。

三 浦ベトナムで実現しそうですか?

桑原氏おかげさまで銀行との接続は決まりましたのでe-ウォレットに給与をチャージするサービスは今年中にサービスを開始します。
今後は給与支払いだけでなく、様々な金融サービスを提供できる環境を作って行くことに注力する方針です。

三 浦今は入り口が送金決済、給与の決済に取り組まれており、ブロックチェーンを活用した個人資産(履歴)から、
与信創造につながっていく流れがよくわかりました。
将来のビジネスの展望はをお聞かせください。

桑原氏実績を少しでも積み上げて信頼を作るのが1番重要だと思っています。
実績があれば、他国への水平展開も早くなると思います。
将来のテーマは、「労働者個人にどうやって力を持たせるか」です。
現状のビジネスモデルはB2B2Cになります。
まずはB2Bモデルの給与計算の仕組みがあり、そこからユーザーとなる従業員が入ってきます。
個人の方たちがサービスを利用する上では、私たちはいかにB2Cに近づけるかということが課題とも考えています。
そして、労働者の人たちにチャンスを提供したく、例えば「真面目な人」このような、定量化が難しい部分も含めて、
個人の信用を作っていけたら嬉しいなと思います。

三 浦本日は貴重なお話をありがとうございました。