学生時代に学んだ知識は、あくまで学問としての理解にとどまり、それを実社会で活かすということは意外と難しいものです。そもそも、大学入試を目的として学んだことや、大学卒業(単位の取得)の為だったりすると尚更、直ぐに忘れてしまいます。人間の脳は10%程度しか利用していないといわれていますが、なぜ、利用していない脳に情報を書き込むことはせず、10%にも満たない範囲に上書きしてしまうのか不思議です。

 さて、学生時代に学んだことに「ナップサック問題」というのがありました。いわゆる組合せ最適化問題といわれるもので、似たような問題には、「巡回セールスマン問題」や「長方形詰め込み問題」など有名な問題がいくつか有ります。これらの問題を見たことある、という人は多いと思いますが、内容を忘れてしまっている人も多いと思いますので、もう一度おさらいしてみたいと思います。

 まず、組合せ最適化問題とは、条件を満たす解の中で一番良い結果を求める問題で、解が順序や割り当てのような組合せ構造を持つものを指します。
 具体的な問題として、先に出た巡回セールスマン問題に触れてみます。とあるセールスマンが多数ある都市を一度ずつ訪問するにあたって、最も効率の良い巡回経路を求めようとする問題です。与えられるデータは、(1)都市の数(n個)と(2)2地点間の距離の二つのみ。全ての都市を一度ずつ訪問し元の地点に戻り、その総距離が一番短いルートを求める、という問題です。
 全ての巡回経路を列挙して、その総距離が一番短いものを調べれば解くことは出来ますが、その経路のパターンは、n!=n(n-1)(n-2)…2・1通りとなります。nの数が3個の場合には6通りしかありませんが、nが10個の場合3,628,800通りとなり、nが30個の場合2.7*10^32通りのパターンが存在しますので、もう現実的に皆さんが使っているPCでは計算不可能です。
img20150116

 次に、ナップサック問題を見てみます。ナップサック問題で与えられるデータは(1)n個の商品の価値と(2)その商品の値段、および(3)ナップサックの容量(もしくは予算上限)です。複数の商品を選んで、選んだ商品の値段が予算の上限を超えないように、しかも出来るだけ価値を大きくしたい、という問題です。
 ちょっと漠然としているので、分りやすい例をあげてみます。
 あなたは小学生です。今度の日曜日に遠足があり、おやつは300円までと決まっています。以下の6種類の中からいくつかを買ってもって行くかを決めるとします。あなたならどれを持っていきますか?(お菓子の満足度を計るパラメータとして、かなり乱暴ですがカロリーを一つの目安とします。カロリー値は便宜上、任意に設定しました。)

品名 価値(満足度) 値段 価値÷値段
チョコレート 150 220 0.681
お煎餅 40 80 0.5
ガム 30 40 0.75
グミ 10 60 0.166
ポテトチップス 80 100 0.8
ラムネ 20 20 1

 選び方はいろいろありますが、例えば、満足度の高い順から選んだとします。
 まず、満足度が一番高い150のチョコレートを選びます。次に満足度の高いポテトチップスを選びたいのですが、これを選ぶと20円予算オーバーなので、その次に満足度の高いお煎餅を選びます。そうすると、220円+80円で300円ぴったり購入でき、満足度は190となります。
 次に、値段の安い順から選んだとします。まず、ラムネを選び、次にガム、グミ、お煎餅、ポテトチップスと順に選びます。ここまでくると丁度300円となり、満足度は合計で180となります。
 今度は、価値÷値段でパラメータの大きい順に選んだとします。そうすると、ラムネ、ポテトチップス、ガムと選びます。次はチョコレートですが、これを選ぶと予算オーバーになるため、チョコレートを飛ばしてお煎餅とグミを選びます。そうすると、300円丁度となり、満足度は180になります。
 ですが、全部のパターンを調べると、チョコレート、ガム、ラムネの三つを選ぶと最も満足度が高いことが分ります。280円を使って満足度は200となります。
 こうしてみると、先に優先順位をつけて最適解を求めようとしても求められず、全検索(列挙)ではじめて最適解が出てくるのです。
 それでは、このようなナップサック問題はどのくらいの組合せがあるかというと、2^nとなり、nが3個であれば8通り、nが10個であれば1,024通り、nが30個であれば1,073,741,824通りなります。先ほどの巡回セールスマンほどではありませんが、nが大きくなると爆発的に大きくなり、演算が困難になってきます。

 ここで立ち返って欲しいのですが、最適解でなければ絶対にダメというものと、そうでないものとが有ります。たぶん、現実的には最適解に近い近似解で十分目的を達成できることも多いと思います。それの精度をどれだけ上げ、最適解に近づけるかが重要だったりしますし、そのような研究は発展しており、有限な時間で最適解に可也近い解を出せるようになってきています。
 先のナップサック問題に類似した事象が現実問題としてあった場合、価値÷値段を選ぶことが多いと思います。そういう私もよく、この方法を採用していました。しかし、このケースを最適解に変更することで20円安い値段で満足度は20も高い成果を上げられるのです。300円のおやつであれば、それほど気にもならない差かも知れませんが、その予算規模が大きくなれば、相応の効果が期待されます。

 今から25年以上前に偶然聞いたラジオ番組で、ちょっと怖いショート・ストーリーというのがあった。随分昔の話の為、詳細な設定はオリジナルとは多少異なっていることはご了承いただきたい。その時に聞いた話はこんな感じだった。

 ある男がいた。年はもう40になろうとしている。同世代の人間の多くは仕事に充実していたり家庭をもってなんだかんだ言いながらも幸せそうな人生を送っていたりするので、周りに対してうらやましく思っている。本人は特に生き甲斐もなくあまりに退屈で怠惰な生活を送っていて、残りの人生をどう生きようか、ただただ迷っているだけだった。そういう人間だから当然女性にモテない。宝くじでもあたって大金を獲得できれば、刺激の強い遊びをして残りの人生を楽しく暮らせるのに、そういう考えは持っていた。
 ある時、寝ていると夢を見る。夢の中に悪魔が出てきて残りの人生の一部をお金と交換しようと取引を持ち掛けてくる。多額の金額で買い上げるという。好きな分だけ売ってもらって構わないが、寿命以上の年数は買い取ることが出来ないので、取引した瞬間に死ぬことはない。ただし、あと何年生きられるかは教えられないという。男はどうせ退屈な人生を送るくらいならと思って大きな取引をすることを決意する。自分の寿命はどのくらいか?平均寿命が80歳だとすると、あと40年は生きられるのか。40年も退屈な人生なんてごめんだ。そう思って、30年分売ることにした。30年売ったって、あと10年は生きられる。素敵な女性と結婚して家庭を持つことも出来るだろうし、それでもお金は余るだろう。別に結婚しなくたっていい。遊び放題遊べばいい。そう思った。悪魔との取引は成立した。
 朝、目が覚めると枕元に見たこともない程の大金が積んであることに気づいた。あの取引は嘘ではなかったことに喜んだ。ただ、起き上がろうとするといつもとかってが違う。ちょっと違和感があり、思ったように体が動かない。何とか体を起こして鏡を見ると驚いた。なんと、自分が老人になっていた。

 企業倫理という言葉がある。通常、企業の目的は営利である。ただし、単に儲ければ良いというわけでない。守るべき法令を遵守する必要があり、法令に記述がなくとも社会環境、人権保護、道徳的観点からも行動規範として企業活動しようという考えである。悪魔に倫理や行動規範を求めても仕方がないが、上記のストーリーに出てくる男は、自分の寿命が仮に80歳だとしたらなら50歳で死ぬことを想定している。確かに悪魔は、寿命の後ろから買うとは言っていないので、どこから買おうが構わないといえば構わないが、取引した男の認識とは随分と隔たりがあったのは事実だろう。
 また、こと金融商品の取引となると、自己責任、ディスクロージャー、説明義務、適合性原則という言葉がでてくる。投資家が自らの判断で取引を行った限りは、その損失は自らの負担とする原理のことを自己責任の原則といい、その前提として、投資家がリスクを判断できる能力を持っていて、その金融商品に対して十分な説明や情報公開が必要であり、その金融商品に対して正しく理解できているか、知識・投資経験・金融資産・投資目的が適合しているかが求められ、著しく相違しているとトラブルへ発展する。
 サービスを提供する側と受ける側で、お互いの理解と認識が一致していれば基本的に問題は発生しないが、必ずしも一致しないこともある。時には都合の良い判断をしようとすることもあるかもしれない。そのようなことをすると信用が失墜するかもしれない。だからこそ、企業活動にはこういう倫理観が求められ、この意識が高ければ、結果、お客様からの信頼も得られるのだろう。

 2014年のノーベル物理学賞に青色発光ダイオード(青色LED)の発明に寄与した3名が受賞しました。青色LEDと聞くと、その発明もさることながら青色LED訴訟が記憶に鮮明に残っており、社員の発明は会社に帰属するのか、その発明に対する報酬の対価については大いに議論になったと記憶しています。判決では、原告の貢献度を50%として発明の相当対価を604億円と認定し、原告が請求した約200億円を支払うように命じられ、最終的には約8億4000万円での和解となりましたが、その金額の大きさに当時は驚かされましたが、今回、スウェーデン国立科学アカデミーに「20世紀は白熱電球が照らした。21世紀はLEDが照らす」と言わしめるほどの功績なら納得です。

 ノーベル賞というと、金融の世界にいる人なら経済学賞に注目する人も多いと思いますが、ノーベル賞は、物理学賞、科学賞、生理学・医学賞、文学賞、平和賞で構成されており、経済学賞はアルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞といって、スウェーデン国立銀行がノーブル財団に働きかけ設立された賞でノーベルの遺言に基づいて設立されたノーベル賞とは異なるということは余り知られていません。

 それはさておき、ノーブル経済学賞を受賞した人物というと個人的には、マイロン・ショールズとロバート・マートン、それにハリー・マーコウィッツを思い出します。マイロン・ショールズは1973年にフッシャー・ブラックと共同で発表したブラック=ショールズ方程式により、オプション価格のプライシングにあらわれる確立微分方程式を発表し、ロバート・マートンがこの方程式に数学的証明を行い、現代金融工学のさきがけとして1997年に共にノーベル経済学賞を受賞しています。なぜ、フッシャー・ブラックではなくロバート・マートンかというと、それはLTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)とういうヘッジファンドの取締役会に加わっていた2人だからです。
 このLTCMというヘッジファンドはソロモン・ブラザーズで活躍した債券トレーダーのジョン・メリウェザーの発案により1994年にローンチされ、FRB元副議長も参画し、前述のノーベル経済学賞を受賞した経済学者2名も加わったことで「ドリームチームの運用」と呼ばれていました。運用方針は、リラティブバリュー戦略と呼ばれるいわゆる債券のアービトラージを中心とするファンドでレバレッジを大きく掛ける運用でした。わずか数年で大きな利益を上げたことからファンドの規模は爆発的に膨れ上がり、運用手法を模倣するファンドも増えたため、当初は同一発行体の債券のアービトラージが中心だったものから、その市場での収益性が細ってきたため、より高いリスクをとってリターンを求めるようになります。それが、ロシア債券ロング・米国債ショートというポジションです。
 1997年のアジア通貨危機に端を発しその煽りを受け1998年にロシア財政危機が深刻化します。モラトリアムと呼ばれる国の債務の支払いに一定期間猶予をもたせることを宣言したことで、質への逃避が急速に広まり、新興市場から投資資金の引き上げが加速したことでLTCMは深刻な状態に陥り1998年9月には実質的に崩壊しました。LTCMはロシア危機の際、ロシアが債務不履行を起こす確率は6シグマと計算しており、市場のリワインドを前提としたポジションを取っていたことがさらに事態を深刻にさせる結果となりました。ノーベル賞を受賞してわずか1年での出来事で、ノーベル経済学賞に名に傷を付けるような結果となってしまいました。

 もう一人はハリー・マーコウィッツです。マーコウィッツは、1990年に「資産運用の安全性を高める為の一般理論形成」によりノーベル経済学賞を受賞しており、ポートフォリオ理論の父といっても過言ではありません。現代ポートフォリオ理論とは、資産運用にあたり様々な投資先の中からリスクを最小化しリターンを最大化させる有効フロンティアを見つけ出そうというもので、ファンドの世界に少しでも齧ると必ず通る道でもあります。
 今から10年ほど前、とあるヘッジファンドのセミナーに参加した際、ライブ中継でつながり、マーコウィッツがポートフォリオ理論を解説するという講義が組み込まれていました。セッション内では、主催者側のファンドについては一言も言及されず粛粛とポートフォリオ理論の講義が進められました。講義の後、ファンドの運用者サイドから、「当ファンドはこのポートフォリオ理論に基づいたファンド・オブ・ヘッジファンズです」と紹介されていましたが、果たしてマーコウィッツがそのように紹介されていることを知っているかを疑わしく思ったことを記憶しています。
 ちなみに、マーコウィッツは、ノーベル賞受賞の賞金の使い道について「賞金は自らが体系化した理論で資産運用を実施したい」と語っていますが、受賞をしてから現在までのDow Jonesの値動きを見ると、エンロンやワールドコムの株式を保有していたとしても分散投資によりリスクを軽減できていたのではないかと思います。
dowjones_chart1

 さて、もうすぐ(10月13日)ノーベル経済学賞の発表です。日本人では今まで受賞者がいませんが、一部報道機関ではマクロ経済学のミクロ的基礎付けを行ったことで知られる、プリンストン大学教授の清滝信宏氏が有力な候補として注目されています。果して、日本人初のノーベル経済学賞の受賞となるか楽しみです。

子供達に数学や理科に慣れ親しんでもらうための工夫として、パズルを取り入れる試みが良く見られます。まずは理屈を抜きにしてパズルに取り組むことで感覚的に楽しんでもらい、最終的には解き方を理論的に考えられるようになると、教える側も一定の目的は達成できたといえるし、教わる側もより理解が深まり興味・関心も強くなるというものです。
それほど難しい問題でなくても、解けると面白いもので、大人でも楽しめる簡単なパズルがあるのでここで2つほど紹介したい。

 

[問1]
ダンボール箱に40個の缶がぎっしり詰まった箱があります。この箱の中にどうしてももう1個缶を詰めたいと思いますが、どのようにすればそれは実現できますか?なお、下記の図は上から眺めたものと考えてください。
img0922_01 (1)

 

[問2]
赤・青・緑・桃の4色の図形があり、それを組み合わされた図が描かれています。上段の図と下段の図を比べると、同じ図形の組み合わせのハズにもかかわらず、下段の図には1マス分、空きマスが発生しています。何故でしょう?
img0922_02(1)

 

 

問1は、1つの缶の接点は最大で上下左右の4点であったものを、缶の行を少しズラして1つの缶の接点を最大で6点にすることで余白の箇所を減らし、最終的にはもう1個の缶を詰めることに成功しています。これは実現可能です。
img0922_01 (2)

 

問2は、両方とも同じ直角三角形に見えますが、実は目の錯覚で同じ図形ではありません。点線で示した辺が直角三角形を形成する直線で、実線と点線の隙間分がこの余白を生み出しているわけです。いわゆる騙し絵といえます。
img0922_02(2)

本質的なところで正しく実現していることと、うわべだけそう見せているだけということは大きく違います。例えば、ここに何らかのシステムがあったとします。このシステムにトラブルが発見され、何らかの改修が必要になったとします。改修にあたって、トラブルになった原因を特定して根本を改修した場合と、結果として表面としてあらわれたトラブルの事象のみを改修した場合とでは、副次的なトラブルの発生率も大きく異なりますし、将来的な機能拡張の制約も違ってきます。安易に表面的な解決に向かうと、結果として後々大きな事故に繋がることもありますのでご注意ください。

 実際に調査することが困難なとらえどころのない量を、複数の手がかり(要素)に分解して理論だった妥当性のある回答を導き出そうとすることを「フェルミ推定」といいます。フェルミ推定のフェルミとは、1938年にノーベル物理学賞を受賞したエンリコ・フェルミ(イタリア、ローマ出身 1901年生-1954年没)の名前に由来し、彼は統計力学・核物理学・量子力学の分野で著名な業績を残しております。20代半ばにしてローマ大学の理論物理学教授に就任し、そこでの放射性元素の発見の成果によりノーベル賞を受賞することになります。ただ、妻がユダヤ人であったことからムッソリーニのファシスト政権下では迫害を受けており、ノーベル賞受賞の為にストックホルムで賞を受け取った後、アメリカに亡命します。最初はコロンビア大学で物理学の教授になるも、数年後にはシカゴ大学に移り、そこで核分裂反応の研究に没頭し、世界最初の原子炉建設を成功させています。その後、原子爆弾開発プロジェクトであるマンハッタン計画に参加し、中心的な役割を担った経歴の持ち主です。

 彼がシカゴ大学で教鞭を執っていた際に、学生に対して出題したとされている問題が「シカゴ市には何人のピアノ調律師がいるか?」というもので、フェルミ推定の話には必ず引き合いに出されます。フェルミ推定は、実際の数値と推論で導き出された答えの誤差よりも、どのような論理的思考でもって仮説を立て回答を導き出すのかが重要です。シカゴのピアノ調律師であれば、実際に調査して実数を計測することも出来るのでしょうが、例えば、地球上にいる蟻の数は何匹か?という問題であれば、誤差を測ることは不可能なので、問題の意図がそこにはないことが解ります。話は戻って、先の問題への考え方として以下のように仮定したとします。
(1) シカゴの人口は400万人とする
(2) 1世帯を4人とすると100万世帯あることになる
(3) ピアノは100世帯に1台あるとすると、シカゴ全体で1万台あることになる
(4) 調律師は1日1台調律できるとする
(5) ピアノ1台は1年に1度の調律を必要とする
(6) 年100日働いて100台調律すれば生活できるとする
そうすると、1万台÷100日で100人の調律師がいる計算になります。必ずしもこのような仮定のみが正というわけではなく、今回は、最後の項目で調律師が生活できる環境で計算しましたが、1台のピアノを調律する時間を要素として取り入れて計算することも可能です。ただし、シカゴの人口がどの程度なのか、何世帯に1台の割合でピアノがあるのか、などの想定が大きく異なれば、結果もブレてしまいます。そういった意味では、ある程度の情報が必要ということになりますが、理論だった仮説の数値がおおよその値であったとしても、複数の要素を組み合わせていくことで、そのバラつきは解消されるでしょう。いずれにしても、フェルミ推定により、一見すると求めることが困難なことが推測でき、より詳細なデータがあれば、その精度が高まることが理解いただけると思います。

 そこで、例えば、広告に関する効果測定を考えてみます。例えば、インターネット上の広告であれば、どのようなキーワードで検索されてきたのか、どのリンクから遷移してきたのか、もしくは表示回数は何回で何件クリックされたのかなどを詳細に計測することが可能です。ところが、テレビ広告や雑誌・新聞広告なので効果測定はどうでしょうか?これらは一般的に効果測定が難しいとされており、アンケートや粗品提供などによりユーザーの反響から測定するということが多いようです。テレビ広告であれば、近年のソーシャルネットワークの普及に伴い、インターネット上の書き込みなどクチコミ情報(カキコミ情報)を集めて分析することで、反響を把握し効果測定も可能になってきます。いわゆるデータマイニングという分野です。それでは、紙媒体などの広告はどうかというと、広告そのものから得られる情報が少なくなかなか効果測定が難しいと云わざるを得ません。そこで、フェルミ推定の出番がくるわけです。ただし、実際に広告費用をかけて結果を求めているわけですから、より正確な予測が必要なため、様々な情報を事前に把握する必要が出てきます。例えば、掲載しようとする媒体の発行部数や読者層の把握、自社の顧客属性を把握しそれとの相関、各種パラメータの把握やスコアリングなど、要素は様々です。また、ばらつきを把握することでどの程度の確度かを分析していくことも可能です。

 フェルミ推定の問題は、戦略的コンサルティングファームや外資系金融企業などの面接試験時に好んで出されることで知られており、論理的思考力・モデル化・定量化などがどの程度なのかを把握するのに使われることが多いのですが、弊社では、実務においても積極的に採用しており、例えば、インフラ構築時にどのような構成にすると負荷が軽減されるのか、将来どの程度までのスケールアップに耐えられるのか、などの分析に用いています。最近では、このフェルミ推定を経ていない、いわゆる憶測はビジネス上では禁句となっているくらいです。

 今からもう10年以上前になりますが、京都大学の西村和夫教授が発表したものが話題となりました。内容は、関東と関西の私立三大学の経済系学部を対象として、当時二十歳前半から五十歳後半までの卒業生にアンケートを行い回答のあった二千人余りの回答をまとめたところ、受験科目に数学を選択した人の平均年収がそうでなかった人より約百万円高かった、というものです。高校までに学ぶ科目の中で数学が最も理論的思考が求められ、ここで培われた論理的能力が職業への適応能力を高められた結果と考えられる、という内容だったと記憶しています。

 理論的な思考力を試すものとしてよくアルゴリズムの話が出てきます。特に良く耳にするのが、無作為に選ばれた単語を広辞苑から検索する話です。広辞苑第6版には約24万語あるので、無作為に選ばれた単語を五十音順にアから順番に調べると大変な検索回数が必要となります。これでは非効率です。そこで理論的思考でこれにあたります。まず、辞書の真ん中あたりを開きます。余程の幸運が無い限り、そこに検索したい単語はないでしょう。そこで、検索したい単語が開いたページより前にある単語であれば更に前半の半分のところを開きます。後ろにある単語であれば後半の半分のところを開きます。更に、開いたところから前にあるか後ろかで半分のところで次々に切り分けていきます。そうすると、1回の検索を重ねるごとに検索範囲は半分ずつに縮小していくことが分かります。全部で24万語なわけですから、2の18乗で18回の検索数で24万語をカバーすることが出来ます。

 もう一つ有名な話で、お見合いパーティで最も期待値の高い人を選ぶ方法というのがあります。前提として、20人の相手には点数でランク付けができ同点はいないものとします。一人一人お見合いをし、その時点での暫定の順位しか分かりません。意思決定の判断材料はお見合いした人数とその暫定ランキングだけとします。お見合いする順番は一様にランダムと考えます。良いと思った人がいればそこで手を上げてお見合いは終了で、以降の人とはお見舞いできません。最後の20人目までお見合いした場合は、その20人目しか選べません。そうした場合、どのような選択をすると最適解が得られるかというものです。結論から言うと、五人目まではパスをして六人目以降はそれまでの中で一番高いランクならその人を選択すると良い結果が得られるというものです。

 ここでお見合いパーティを外国為替市場に読み換えてみます。この20人をお見合い相手ではなくリクイディティプロバイダだと仮定します。取引所取引でなければ一物一価ではないため、それぞれ異なる提示レートが想定されます。自らのエクスポージャーを縮小させるべくカバーを出したい場合、当然一番良い提示レートでカバーしたいはずですが、次に提示されるレートが一番良いプライスとは限りません。しかし、市場リスクは長く持ちたくもありません。そこでアルゴリズムで適切なカバーモデルを構築します。どのようなパラメータを用いるのか、その最適化はどうするのか、どの程度のリスクを許容できるのかによって結果は異なりますが、リクイディティからアルファを抽出することが可能になります。理論的思考が年収プラス百万円を生み出すように。

1 / 1